なぜこの調査を始めたのか
実は、この疑問を持ったきっかけは、友人との何気ない会話でした。登山好きの友人と話していた時に、「日本で一番高い断崖って、どこだと思う?」という話題になったんです。
「富山の悪城の壁でしょ!」「いや、剱岳のナイフリッジの方が凄くない?」なんて議論をしていたんですが、ふと気づきました。私たちが知っているのは、あくまで「有名な」崖だけ。もしかして、人知れず、もっと高い崖があるんじゃないか?
そう思って、国土交通省の地形データを使って、実際に全国調査をしてみることにしました。
🔬 調査方法:データを使って日本の断崖を解析
使用データと処理規模
今回の調査では以下のデータと規模で解析を実施しました:
- データソース:国土交通省の「標高・傾斜度5次メッシュデータ」
- メッシュサイズ:約250m × 250m(1メッシュあたり)
- 調査範囲:日本全国169地域
- 解析データポイント:数百万のデータポイント
断崖の定義基準
今回の調査では、以下の基準で「断崖」を定義しました:
📏 物理的基準
- 最小傾斜角度:60度以上
- 最小標高差:20m以上(だいたい6階建てのビル相当の高さ)
🔗 グループ化とランキング方法
この条件に該当するメッシュを隣接する2つ以上でグループ化し、各グループの最大標高差でランキングを作成しています。
つまり、その断崖グループ内で最も高い地点と最も低い地点の標高差が大きいほど、上位にランクインするということですね。
⚠️ データの制約
ただし、250メートル四方のメッシュデータのため、断崖の詳細な位置や形状は分からず、孤立した小規模な断崖は除外されています。
🤔 傾斜角60度ってどのくらい?
60度の傾斜がどのくらいか、身近なもので例えてみましょう:
- スキー場との比較:上級者コースでも40から45度程度なので、相当な急峻さ
- 階段との比較:普通の階段が約30度、非常階段でも45度程度
- 感覚的には:「ほぼ垂直の壁を少し斜めにした」ような急峻さ
🎯 なぜ60度を基準にしたの?
実は、60度という基準を選んだ理由は意外とシンプルです。
調査を始める前に、悪城の壁の傾斜角を地形データで計算してみたんです。そうしたら、約60度という数値が出てきました。
📊 調査結果:予想外の発見
この基準で、日本全国169地域、数百万のデータポイントを実際に解析してみました。
結果を先にお伝えすると、全国で110箇所の巨大な断崖が見つかりました。
🎯 驚きの結果
私が予想していた悪城の壁は…なんと58位でした。
上位の崖は、ほとんどが人がなかなか近づけないような場所ばかり。だから知られていないんですね。
全110箇所の詳細データを可視化しました。以下で公開中です:
それでは、TOP10を発表していきます!
🏔️ 第10位:谷川岳の断崖
位置:谷川岳の東側斜面
これ、東京スカイツリーが634メートルなので、それを大きく上回る高さです。航空写真で見ても、その険しさがよく伝わってきます。まさに自然の要塞といった感じです。
⛰️ 第9位:中央アルプス・木曽駒ケ岳の断崖
位置:木曽駒ケ岳の東側斜面
木曽駒ケ岳の東側斜面にある断崖で、標高差は819.5メートル。10位とほぼ同じ高さですが、傾斜角が66.6度とより急峻になっています。
興味深いのは、航空写真で10位と比較すると、こちらの方が断崖らしい迫力を感じるんですよね。数値だけでは分からない、視覚的な印象の違いがあります。
🗻 第8位:北アルプス・唐松岳の断崖
位置:唐松岳の西側斜面
唐松岳の西側斜面。標高差843.2メートル。さすが北アルプス、スケールが違いますね。
ただ面白いことに、標高差は9位より高いんですが、航空写真で比較すると、9位の方が険しく見えるんです。これも地形の面白さですね。
🏝️ 第7位:南硫黄島の断崖
位置:南硫黄島
なんと、小笠原諸島の南硫黄島がランクイン!標高差863.6メートル、傾斜角67.1度。海から直接立ち上がる垂直の壁です。
これまでで最大の標高差と傾斜角を誇るんですが、不思議なことに航空写真で見ると、なぜかそれほど険しく見えないんです。
🌲 第6位:黒部川流域・釣鐘温泉付近
位置:黒部川流域・釣鐘温泉付近
標高差875.5メートル、傾斜角71度。実は、この場所は黒部峡谷鉄道の釣鐘駅の前にそびえ立っているので、上位の中では比較的アクセスしやすい場所なんです。
🏔️ 第5位:大台ケ原・大蛇嵓周辺
位置:大台ケ原山・大蛇嵓周辺
まさか紀伊半島からもランクイン!標高差912.6メートル。ついに900メートルを超えました。グランフロント大阪の5個分の高さです。
⛰️ 第4位:黒部ダム
位置:黒部ダムの右岸側
黒部ダムの右岸側にある断崖。標高差955.3メートル、傾斜角69.8度。黒部ダム建設の困難さが、この地形からも伺えますね。
🌋 第3位:黒部川流域・奥鐘山
位置:奥鐘山の西斜面
奥鐘山の西斜面。標高差962.1メートル、そして傾斜角が76.1度!これは上位10位の中で最も急峻な場所です。ほぼ垂直に近い壁に見えますね。
⚡ 第2位:中央アルプス・木曽駒ケ岳の断崖
位置:木曽駒ケ岳の南斜面
9位とは別の場所で、木曽駒ケ岳の南斜面。標高差972.9メートル。木曽駒ケ岳、恐るべし。
🏔️ 第1位:黒部川流域の断崖
位置:百貫山西斜面
百貫山西斜面にある断崖で、標高差はなんと1046.9メートル!東京タワー約3個分の高さです。傾斜角も72.7度と非常に急峻。
ただ、興味深いことに航空写真で見ると、2位の方が断崖らしい迫力があるように見えるんです。これは、撮影角度の影響もあるかもしれませんね。数値が全てを物語るわけではない、地形の奥深さを感じます。
📊 今回の調査で分かったこと
地域分布の特徴
今回の調査で分かったことをまとめると:
- 黒部川流域の集中:上位10位のうち、なんと5箇所が黒部川流域に集中していました。黒部川流域は本当に日本屈指の険しい地形なんですね。
- 中央アルプス・木曽駒ケ岳周辺:2箇所がランクイン。南アルプスや北アルプスと比べて地味な印象のある中央アルプスですが、実は非常に急峻な地形だということが分かりました。
- 意外な場所からのランクイン:紀伊半島の大台ケ原や、小笠原の南硫黄島など、意外な場所からもランクイン。
私たちが「断崖」として思い浮かべる有名な場所は、実は氷山の一角だったんですね。
🔗 参考資料・データソース
国土数値情報ダウンロードサイト – 標高・傾斜度5次メッシュデータ
https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-G04-d.html
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